TRAVEL 55 | 伊豆大島 #4 波浮
伊豆大島には3つの港町がある。と書いたが、そのうちの2つ目 波浮(はぶ)。大島の一番南側に位置する港町。
港は、火山が噴火してできた湖から大津波で海と繋がり、さらには、江戸時代末期崖を切り崩し、港口を拡げて現在港になったそうだ。岩壁に囲まれ、円形が途切れたような形になっている。
そのため荒波が立つようなことはあまり無いようで、水量豊かで穏やかな様子をいつも感じている。その昔は遠洋漁業の中継港にもなっていた。
夏場は、子どもたちが海に飛び込み元気に遊ぶ様子がうかがえる。
まるでプールのようだ。
その反面、港町といえど、元町、岡田と比べると「陰」のイメージを抱くことがある。
大島の中でも際立ってノスタルジックな風情あるこの港は、文人や画家などの文化人も多く訪れたことで知られるが、当時の活気はほとんど感じられず、静けさともの悲しさが共存しているからか。
川端康成の伊豆の踊子舞台となった踊り子の里資料館(旧港屋旅館)は有名で、明治時代のままの建物が現存するのだが、当時の様子を再現する建物内のマネキンたちの動きは今日に見ると、ことの外恐ろしい。
波浮という町は、高台も含まれている。崖であるため港と高台との高低差が大きい。
高台には明治時代に建築された大谷石の壁で囲まれたなまこ壁が特徴の建築物旧甚の丸邸がある。ここでは、明治時代当時に政治・経済の中心地でもあった波浮港で蚕の飼育と繭の生産をしていたそうだ。
過去のことは事実・歴史に基づき、想いを馳せる外わかることはないが、ガランとした居間その広さから、かつての様子は信じられず「本当にここに在ったことなのか。。?」と疑うほどに静かだ。
〝時が経つ〟ということを感じてしまう。
今ではこの並びにある、「羽根つきたいやき」で知られ、古民家貸切宿にもなっている島京梵天(とうきょうぼんてん)さんの活気が目覚ましい。
ちょっとしっとり目の生地と甘すぎないあんこが絶妙だった。店内で焼き立てが食べられるので、おやつの時間に立ち寄るのがいいだろう。
あんこメニューも豊富だし、冷やしたい焼きもある。
お店ではとても元気なご主人とおかみのダジャレトークにもついつい乗せられてしまうのがひとつの楽しみ方だと思う。
会話を交わしながらふと我に返る自分に気が付く。
かつての時間に引き込まれタイムトリップをしたのだ。
波浮を訪れた人には、特別な時間が流れていることをきっと感じてもらえるだろう。
夜の帳がおり、この日も静かに過ぎ行く。
やはり波は穏やかなままだった。